娩出期の異常分娩(難産・死産)の見極めと対処法(デーリィジャパン様 2月号)

前号に引き続き、異常分娩の見極めとその対処法について、破水後の娩出期に発見される異常分娩について解説します。

娩出期(第2期)における異常所見

破水後に明らかとなる異常所見としては、①第1破水がない、②羊水の異常、③産道からの出血、④胎盤の早期剥離、⑤胎子の活力低下および胎子死、⑥お産の進行の遅れなどがあります。その見極めと対処法は以下のとおりです。

1 破水の順序が逆転する

第1破水が見られず、いきなり羊膜(足胞)が現れることは、少なくありませ
ん。第1破水と第2破水の順序は必ずしも一定ではなく、お産の進行に伴い胎子
娩出の途中で第1破水が起きたり、時には、胎子出生直後に尿膜絨毛膜が現れ
第1破水が起きたりすることもあります。先に第1破水がなくても、お産の進行
や母子の健康に影響は認めないことが多いです(図1)。お産後に尿膜絨毛膜
が現れた場合には、双子の場合も考えられますので、人工的に尿膜絨毛膜を破
って破水させた後に2頭目がいないかどうか触診する必要があるでしょう。こ
うした牛では、産後の努責が続く可能性もあり、子宮脱には注意する必要があ
ります。産後の努責が強い場合には、牛を起立させることも有効です。

2 羊水の異常

a. 胎便による混濁
第2破水時の羊水が胎便で褐色に混濁している場合には、胎生期における胎便の排出が要因です。胎子の肛門が緩むことで胎便の漏出が生じたもので、こうしたケースでは胎子の活力低下が懸念されます。胎水の混濁を認め、被毛が
黄色に変色した子牛が出生しても異常がないこともありますが、一方で、死産胎子において、このような異常が認められることも少なくありません。

胎水の混濁が確認された時点で産道からの触診検査を行い、胎子の生死や活力を検査
する必要があります(第9回胎子の生死を参照)。胎子の活力低下が疑われる場合には、できる限り早い分娩の推進と助産が必要となるでしょう。

この胎便を含んだ胎水は、気道内の異物となり炎症を引き起こす可能性もありますので、出生直後にできる限り気道周囲の胎水を取り除き、温湯にて洗浄除去することが推奨されています。

b. 羊水の異臭・腐敗

破水時に、羊水の異臭、特に腐敗臭などの悪臭を伴う場合には、胎子が既に死亡していることが考えられます。触診検査により、胎子の死亡、腐敗の状態を確認し、人的介入の可否やタイミングを判断しなければなりません。胎子が
死亡している場合には、重度な胎子失位を伴うことが多いです。帝王切開術は胎子の救命を目的とするべきで、死産の場合には母体へのリスク軽減のため、できる限り経腟分娩を心がけるべきでしょう。経膣分娩が困難な失位や気腫胎
では、無理な牽引は母牛に対するリスクも大きいので、切胎術(失位部分を切り取る方法)も選択肢の一つです。すでに起立困難など重篤な症状を呈し播種性血管内凝固症候群(DIC)を疑う場合には、母体の救命のための大量補液や
凝固防止を優先し、帝王切開術を急ぐべきではありません。

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